大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)2005号 判決 1963年4月06日
判 決
大阪市城東区茨田横堤町一四〇番地
原告
長野布帛株式会社
代表取締役
秋山幸夫
右訴訟代理人弁護士
中村公男
嘉根博正
近藤千秋
同所
被告
山本大作
加古川市加古川町大野一、五三〇番地
同
谷川仁夏こと
韓仁夏
被告ら訴訟代理人弁護士
中村幸逸
池添勇
永野彰
主文
一、被告らは原告に対し大阪市城東区茨田横堤町一四〇番地一、宅地二三三坪同所一四一番地一、宅地二五七坪のうち北西側約七二坪四合五勺(添付図面の(レ)(ソ)(ヰ)(ウ)(ム)(カ)(レ)の各点を結ぶ赤斜線で囲まれた部分)と東側約五三坪四勺(同図面の(イ)(ハ)(ニ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ赤斜線で囲まれた部分)の土地上にあるバラツク小屋、古自動車、古ドラム罐スクラツツプその他一切の物件を収去して右各部分を明渡しせよ。
二、被告らは原告が右宅地全部(同図面の(レ)(ツ)(ネ)(ナ)(レ)の各点を結ぶ部分)を占有することを妨害してはならない。
三、訴訟費用は被告らの負担とする。
四、この裁判は第一項にかぎり仮に執行することができる。
事 実(省略)
理由
一、原告会社が主文第一項掲記の宅地(添付図面の(レ)(ツ)(ネ)(ナ)(レ)の各点を結んだ部分以下本件土地という)を占有していること、被告韓仁夏が昭和三五年一〇月一七日頃本件土地内に古自動車などを搬入し、被告らは昭和三六年一二月二三日頃本件土地内に建坪約一〇坪(同図面のの(イ)(ロ)(ホ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶAの建物)昭和三七年一月二五日頃から建坪約八坪(同図面の(ト)(チ)(リ)(ワ)(ト)の各点を結ぶBの建物)建坪約二坪(同図面の(ヲ)(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)の各点を結ぶCの建物)建坪半坪(同図面の(タ)(オ)(ノ)(ヨ)(タ)の各点を結ぶDの建物)の各バラツク建簡易小屋を建てそれらに人夫を住ませ、このようにして同図面中赤斜線で囲まれた部分(同図面の(レ)(ソ)(ヰ)(ウ)(ム)(カ)(レ)の各点を結ぶ部分と(イ)(ハ)(ニ)(ヘ)(イ)の各点を結ぶ部分)に右の各バラツク建簡易小屋を建て古自動車、古ドラム罐、スクラツプなどを持ち込んでいることは当事者間に争いがない。
二、そうすると、被告らがそのようにバラツク建簡易小屋を建て古自動車、古ドラム罐スクラツプなどを本件土地に持ち込むについて被告らにおいて、原告会社の許諾があつたとかその他被告らの行為を正当づける理由を挙示して抗弁しない本件にあつては被告らの右行為は原告会社の本件土地の占有の侵害であるとするの外ない。
そうすると、原告会社は被告らによつて右各赤斜線で囲まれた部分の占有を奪はれたことになり、原告会社は本件土地の占有権にもとづき被告らに対し右各部分からバラツク小屋、古自動車、古ドラム罐、スクラツプその他一切の物件を収去して右各部分の返還を求めうること勿論である。
三、被告らが昭和三七年四月初頃原告会社に対し、本件土地上にアパートを建てようとして被告会社が主張するような申入をし時を移さず本件土地のバラツク小屋の一部(前記Cの建物)の破壊にかかつたことは当事者間に争いがなく、(証拠―省略)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告会社は本件土地を工場敷地として利用し、その空地は製品の梱包や車の乗り入れなどに使用し、本件土地の北東隅には女子従業員用寄宿舎を建てその通路としても使用していたところ、被告韓仁夏は原告会社の制止もきかないで古自動車を持ち込み一時警官の立合いで本件土地の外に出されたが、同被告は再びそれを持ち込んだばかりか大阪地方裁判所に原告会社を相手どつて仮処分の申請をし昭和三五年一二月六日決定された仮処分決定の執行に附随して更にドラム罐、スクラツプなどを持ち込んだ。その決定は昭和三六年四月五日同裁判所で取消されたが(同所裁判で右の日に仮処分の決定がありその執行後右の日にその決定が取消されたことは当事者間に争いがない。)その後である同年一二月二三日頃から被告らは右のバラツク小屋を建て更にこゝにアパートを建てようとしていること(このことも当事者間に争いがない。)が認められ右認定に反する証拠はない。
右認定の事実からすると、被告らには本件土地をさらに実力で妨害する虞れが客観的に存在するといえるから、原告会社は、被告らに対し本件土地の占有を妨害しないように求める必要がある。
四、そこで被告ら主張の抗弁について判断する。
(一) 被告らは本件訴が占有回収の訴であると主張しているが、本件訴が占有保持の訴であることは原告会社の主張自体からするも明らかである。(他人の占有土地にバラツク小屋を建て古自動車や古ドラム罐スクラツプなどを持ち込むことは占有の妨害であつてまだ占有侵奪の程度に至つていないと解するのが相当である。)
そうするとこの抗弁は理由がない。
(二) ところで占有保持の訴は妨害がある間は提起できるが民法二〇一条一項但書により、その妨害が工事による場合は工事が竣成したときは最早右の訴を提起することができないからその工事の意義が問題になる。
同但書が設けられた趣旨は、工事による占有の妨害は容易に判明するのに、占有者が工事着手後一年も経過し又はその工事が竣工するまで異議を主張しないのは、その権利を等閑に付したもので保護に値しないばかりか、工事落成後又は工事が著しく進んでから後、簡単な占有保持の訴でその取毀をするのは経済上不利益であつて公益にも反するところにある。従つてこの趣旨からすると工事とは家屋、橋、トンネル、軌道など相当の費用と月日を必要とするものを指称し、本件のように僅かの費用と日数とで出来上り又その取毀しも容易なバラツク建簡易小屋は含まれないと解するのが相当である。
そうすると成程被告らはバラツク小屋を完成してはいるが、同但書を援用して被告らはその保護を求めることができないことに帰着する。
被告らは、又スクラツプ置場の工事を完成したと主張しているが前掲検甲号各証によると、右各赤斜線で囲まれた範囲の部分の外側の一部に杭を打つて、はりがねが張つてあるだけで、これだけではスクラツプ置場の工事が完成されたことはいえないばかりか、寧ろただ空地にスクラツプなどが積まれた状態であるとしかいえない。
そうすると被告らのこの抗弁も採用に由ない。
五、以上の次第で原告会社が被告らに対し右赤斜線で囲まれた各部分からバラツク小屋、古自動車、古ドラム罐、スクラツプその他一切の物件を収去して右各部分を明渡しすることと、被告らが原告会社の本件土地の占有の妨害をしないことを求める本訴請求は正当であるから認容し民訴八九条一九六条を適用して主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第三九民事部
裁判官 古 崎 慶 長
(添付図面省略)